地域公共交通勉強会の何玏が、2025年度の土木学会論文奨励賞を受賞しました。
それに伴って、第72回土木計画学研究発表会・秋大会(2025年11月22日~24日、福井工業大学)において、「地域公共交通研究の工学的発展をめざして ―「現状よりまし計画法」から「目標達成型計画法」へ―」と題して招待講演をすることになりました。
2025年11月23日(日)17:00~18:00(そのうち、後半30分間)
フェニックスプラザ小ホール
講演スライド
下の方に、質疑応答フォームと「脚注」が続きます。
ダウンロードはこちらから
https://drive.google.com/file/d/1qjADJx7pnPJJFwUVbOMk1hbzO1koy1hR/view?usp=sharing
質疑応答フォームSli.do
質問の際にはご所属とお名前をお願い致します。

講演スライドの文献リンクおよび脚注
p.2 自己紹介
p.3 受賞お礼
受賞論文
p.7 地域公共交通政策の現在地
「既存サービスに改善の余地がある限り、まず改善」と書いたが、ご助言いただいた方からは、「地域公共交通の世界では、改善の余地があるならリソースを増やすなんて社会に説明できないと思われていて、その割に改善の余地を皆無にするメソッドを持っていないので、リソースを増やさず一生改善し続ける羽目になっているのではないか」との厳しい指摘をいただいた。
p.11 地域公共交通という用語について
p.12 地域公共交通の研究史
- 加藤晃, 竹内伝史:都市交通論,鹿島出版会,1988.
- 谷本圭志,喜多秀行:地方における公共交通計画に関する一考察-活動ニーズのみに着目することへの批判的検討,土木計画学研究・論文集,23巻3号,pp. 599-607,2006.
- 森山昌幸, 藤原章正, 杉恵頼寧:過疎地域における公共交通サービスの評価指標の提案,都市計画論文集,38.3巻,pp.475-480,2003.
- 秋山哲男,吉田樹:生活支援の地域公共交通――路線バス・コミュニティバス・STサービス・デマンド型交通,学芸出版社,2009.
- 加藤博和:地域公共交通の現場で何が求められているのか?,家田仁・小嶋光信:地域モビリティの再構築,pp.80-109,薫風社, 2021.
- 中村嘉明, 溝上章志:バスロケーションシステムの導入・運用の実態と課題,土木学会論文集D3,74巻5号,pp. I_1197-I_1205,2018.
p.13 地域公共交通の主要文献
そもそも地域公共交通を学ぶ人向けの文献案内をこちらに用意している。

- 土木学会:バスサービスハンドブック, 2006.
- 喜多秀行,谷本圭志:“地域公共交通計画の新たな潮流”特集にあたって,土木学会論文集D,65巻4号,pp.519-520,2009.
- 喜多秀行:社会資本としての地域公共交通,運輸政策研究,運輸政策研究所設立15周年記念号,2010.
- 家田仁・小嶋光信:地域モビリティの再構築,pp.80-109,薫風社, 2021.
- 土木学会土木計画学研究委員会規制緩和後におけるバスサービスに関する研究小委員会:バスサービスハンドブック改訂版,2024.
- 寺田一薫編著:地方分権とバス交通 規制緩和後のバス市場,勁草書房,2005.
- 青木亮編著:地方公共交通の維持と活性化,成山堂書店,2020.
- 宇都宮浄人:地域公共交通の統合的政策,東洋経済新報社,2021.
- 宿利正史,軸丸真二:地域公共交通政策論第2版,東京大学出版会,2024.
p.17 公共交通の本質は2つ
- 中村文彦:まちづくりにかかせない公共交通のために,新都市,75巻2号,pp.3-4,2021.
p.20 地域公共交通概念の類型化
関連して、総消費者余剰最大化方式では過疎地のバスサービスの維持が正当化出来ないことを示した研究に小林ほか(1999)がある。
p.23 「権利と効率のストック効果」との類似性
- 小池淳司:権利と効率のストック効果に基づく社会的意思決定方法と実用的なストック効果計測手法の開発R4年度(1年目)の検討成果,社会資本整備審議会道路分科会第23回事業評価部会 配布資料6,2023.
関連して、吉田も近年、地域公共交通は2つの異なる領域に分かれると指摘している。ただし、品質保証と性能保証という言葉の使い分けが辞書的に意味が通じるものなのかは私はよくわかっていない。
本体 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001846108.pdf
リンク元 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_fr_000177.html

p.25 事業計画vs交通計画
- 喜多秀行:社会資本としての地域公共交通,運輸政策研究,運輸政策研究所設立15周年記念号,2010.
営利と非営利で意味が異なるはずの「持続可能な地域公共交通」
時間がなかったので講演では端折ったのだが、国土交通省が近年強調する「持続可能な地域公共交通」というフレーズの「持続可能」の意味も、営利サービスと非営利サービスとでは別だと切り分けて考えないと混乱のもとである。営利サービスは収支=持続性だが、非営利サービスはそうではない。非営利サービスは上位目的に対する比較優位性、言い換えれば「支えるに値するか」が持続性である。
交通計画と事業計画の区分けを考える
この講演を準備する過程では、助言をくださる方から、交通計画と事業計画の区分けは自明ではないという指摘をいただいた。特に、営利サービスは利潤最大化をめざす事業計画があるのみということは理解できるが、非営利サービスにおいては社会課題解決をめざす部分と具体的施策を定める部分は不可分一体で区切りめの存在はわかりにくいと。「具体的施策を伴わない水準論が交通計画で、具体的施策が事業計画なのか?」との受け止めを教えていただいたが、概ねそれで間違いないようにも思う。
あえて言語化するならば、非営利サービスの領域においては、
◯社会課題をどの水準でどのコストをかけて解決するのか→交通計画
◯交通計画で与えられた水準(実際には単に「現状」だったりする)に対して費用最小化をめざして具体的にサービス設計をする→事業計画
となる。
そもそもここで言いたいのは、あるいはネタ元である喜多(2010)が言いたいのも、公共交通の計画はすべからく交通計画と事業計画とに分かれるというテーゼではなく、営利領域の営利目的の計画手法があるとして、非営利領域においても営利領域と同様の事業改善効率化の計画づくりに強い関心を持つ人(産官学ともに存在する)が少なからずおり、非営利領域において考えるべき社会課題を解決する計画の部分が等閑視されているということである。
非営利領域にもかかわらず、「社会課題をどの水準でどのコストをかけて解決するのか」にほとんど興味がなく、所与の条件の下で事業者の収益最大化行動と似た行動(例えば、マーケティングとか)をとることに関心を持つ人の存在のために、結果的に地域公共交通の計画実践が片翼飛行になっているという批判である。
それをわかりやすく表現するために、便宜的に交通計画(的な部分)と事業計画(的な部分)という区分けを導入し、前者が軽視されていると述べたに過ぎないと考えれば、定義がいささか曖昧なのもやむを得ないのかもしれない。
p.29 生活支援交通✕交通計画
- 猪井博登, 新田保次, 中村陽子:Capability Approachを考慮したコミュニティバスの効果評価に関する研究,土木計画学・論文集,21巻,pp.167-174,2004.
p.31 生活支援交通✕交通計画
- 谷本圭志:高齢社会のフロンティアで考える交通基本法-移動権への期待と不安-,運輸政策研究,13巻4号,pp.22-24,2011.
- 国際交通安全学会:地域でつくる公共交通計画―日本版LTP策定のてびき,2012.
p.32 生活支援交通✕交通計画
谷本・喜多らの研究相関図および谷本・喜多らの研究リストはこちらで公開している。

p.34 生活支援交通✕事業計画
- 何玏,楽奕平:バス産業規制緩和後の生活交通確保に対する学説と国・自治体の姿勢の展開―ミニマム保障と利便性向上の概念的曖昧さと政策目的の希薄化―,土木学会論文集,80巻20号,2025.
講演では時間不足のため触れられなかったが、コミュニティバスブームへの反動から土木計画学研究委員会の地域公共交通へのアプローチが行われてきたという歴史的経緯は、こんにちにおいては問題をはらんでいると考えている。つまり、コミュニティバスブームへの反動という入口が、研究者のスコープを対症療法的なものに追いやっているのではないかということである。そろそろ、コミュニティバスブームへの反動を「卒業」して、平時の地域公共交通政策を追求する時ではないだろうか。
p.35 生活支援交通✕事業計画
- 加藤博和,地域公共交通をプロデュースする -それは,ライフスタイルを提案すること,ていくおふ,149号,pp. 4-11,2018.
- 加藤博和:地域公共交通が支える超高齢社会-地域コミュニティがモビリティを「つくり」「守り」「育てる」,都市計画,64巻4号,pp. 46-51,2015.
- 加藤博和・高須賀大索・福本雅之:地域参画型公共交通サービス供給の成立可能性と持続可能性に関する実証分析-「生活バスよっかいち」を対象として-,土木学会論文集D,65巻4号,pp. 568-582,2009.
p.41 都市公共交通✕交通計画
- 太田恒平:バスのサービスレベル向上と運賃策による熊本都市圏の渋滞緩和効果推計 ~公共交通への公的投資に向けた感度と集計QVに基づく迅速なシナリオ検討~,土木計画学研究発表会・講演集第69巻,2024.
p.42 「クロスセクター効果」
- 西村和記, 東徹, 土井勉, 喜多秀行:クロスセクター効果で測る地域公共交通の定量的な価値,土木学会論文集D3,75巻5号,2019.
p.49 生活支援交通に収支率目標を求める国
国庫補助の全体像はこちらのページで解説している。

p.51 生活支援交通に収支率目標を求める国
- 酒井達朗:乗合バス事業者の個票データ分析に基づく地域公共交通事業への収支改善インセンティブ強化施策の検討,運輸政策研究,25巻,pp.6-17,2023.
地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱第2編第1章第1節第7条2項七号
細かくいうと、国庫補助対象サービスのうち、地域間幹線系統に課された要求であり、地域内フィーダー系統は免れている。それでも、利用者数や収支率の目標をたてて自己評価することが要請される。
第7条(地域公共交通計画)
2 前項の地域公共交通計画には、次に掲げる事項について具体的に記載した書類を添付するものとする。
(中略)
七 地域公共交通確保維持事業の生産性を向上させる取組(取組内容、実施主体、定量的な効果目標(収支改善率1%以上を原則 、実施時期及びその他特記事項)
p.53 目標達成型計画法へ
- 国際交通安全学会:地域でつくる公共交通計画―日本版LTP策定のてびき,2012.
p.55 目標達成型計画法へ
講演論文5(3)から小山市の実践と課題の部分を下記に転載したのでご覧いただきたい。

p.62 地域公共交通業界は実践重視!?
- 加藤博和:地域公共交通の現場で何が求められているのか?,家田仁・小嶋光信:地域モビリティの再構築,pp.80-109,薫風社, 2021.
p.63 地域公共交通業界は実践重視!?
批判する前に現場で実践せよ、というのは科学ではないと思う。

恫喝とあてこすりのない、心理的安全性の保たれた地域公共交通研究業界を!

助言してくださる方からは関連して、地域公共交通研究業界が、ともすれば地域公共交通会議に参画している数(これはれっきとした特権であろう)でマウントをとりあう殺伐とした領域となっているために、本当は「公的関与の必要な公共交通」をテーマに扱いたい研究者が、「地域公共交通」という6文字を避けて「モビリティのなんとか」等の一見別の問題設定に走っている、そのことによって斯界がますます分裂し混迷しているとの厳しい指摘をいただいた。
p.66 地域公共交通研究の工学的発展
現場で得られた知見の「客観的言語化」には私もおおいに取り組んでおり、そのうちの一つの成果が下記報告書である。

上記報告書に関連した研究報告が秋大会で24日に予定されている。

p.67 インセンティブ設計の考え方
- 山本卓登:不採算バス路線に関する特別交付税措置の性質とその問題,運輸政策研究,25巻,pp.18-28,2023.
p.68 インセンティブ設計の考え方
その地域公共交通分野で国が作成して地方自治体に流通する「分厚い手引書」の数々を収録・整理した成果がこちらである。

p.69 インセンティブ設計の考え方
- 山本卓登,何玏:市町村における地域公共交通政策の財源認識と運用の実態:市町村アンケートを基に,交通学研究,67号,pp.69-76,2024.
p.70 インセンティブ設計の考え方
- 何ロク,永田右京,楽奕平:地域公共交通のあるべき補助方式への―考察―赤字補填からの脱却の主張に着目して―,土木学会論文集,80巻9号,2024.
- 喜多秀行,松永拓也,蘆田哲也,谷本圭志:リスク負担能力と経営改善努力を考慮した運行委託契約に関するモデル分析,交通工学研究発表会論文報告集,27巻,pp.141-144,2007.
- 村野祐太郎, ZOU Wenqian, 溝上章志:需要変動を内生化した地域公共交通に対するインセンティブ補助の理論とその適用,土木学会論文集D,39巻5号,pp. I_649-I_658,2013.
- 山本卓登,何玏:市町村における地域公共交通政策の財源認識と運用の実態:市町村アンケートを基に,交通学研究,67号,pp.69-76,2024.
インセンティブ設計の考え方 余話
ある助言者からは、「日本の市町村は本来有能だ。なぜなら、小中学校の運営という難しい任務をどんな小さな市町村でもできているんだから。そんな有能な日本の市町村が、小中学校の運営よりも簡単な、地域公共交通の供給確保ぐらい自前で・独力でマネジメントできないわけがない」との示唆をいただいた。
これは大事な視点である。
私の講演のうちインセンティブ設計の考え方の部分に対しては、加藤からはきっと、自分たちは地域公共交通の問題を根治するために、地域公共交通プロデューサーを何百人も日本に育成しようとセミナー開催事業に取り組んでいるのだと反論を受けると思う。
しかし、私が願っているのは、むしろ、究極的には「地域公共交通プロデューサー」がいなくても済むような社会の仕組みなのである。
行政が関与する他の生活サービス分野で、サービス設計にいちいち外部の大学教授や専門家が介入しないといけない分野は無い。現状は、地域公共交通を取り巻く仕組みが複雑奇怪すぎて、外部の「伝道師」に依存しなければならない状態がある。地域公共交通においても、「引き算の地域公共交通政策」をしっかり実践して、自治体の行動を歪ませるような制度の縛りをなくしていき、インセンティブ設計をしっかりやれば、「伝道師」が介入せずともソリューションは現場から湧いてくる。そんな制度のあり方を展望しているので、「共創人材育成」とは実は発想が真逆なのである。
地域公共交通を特殊な政策領域とみなしすぎではないかと思う。もっといえば、地域公共交通を、その真髄を理解した「界隈」の中の専門家・技術者にしか扱えないものにしてしまっていないかと思う。地域公共交通をもっと一般的な、普遍的な問題として位置づけ、土木計画学はもちろんのこと、経済学・地方財政学・行政学のメインストリームの人に、メインストリームな手法を用いて扱っていただきたい。そう願って今日の講演を準備した。
謝辞
実に10人を超える方にご助言をいただきました。
その中には、私の見解とは立場の異なる方もいらっしゃいますが、立場の違いを越えて率直なご助言をいただきました。心から感謝申し上げます。

