路線バス事業の廃止手続きの解説

地域公共交通の学説
地域公共交通の学説論説

何玏(芝浦工業大学大学院博士課程)

2023年は、乗合バスの大型廃止案件が相次ぎ、乗合バスの廃止問題としては珍しく大手マスコミにも継続的に取り上げられることとなりました。

一方で、業界外の一般利用者・住民としては、常にバス廃止案件が急に表面化する印象があるのではないでしょうか。日常の生活の足が急になくなるということがあってよいのかという疑問も当然です。

実際には、日本の乗合バス事業を規制している道路運送法は「日常の生活の足が急になくなる」ような事態を認めたものではありません。事業者の路線廃止に対して地方自治体や利用者側が適切に対応できるように、廃止にあたってしかるべき手続きを課しています。一方で、そうした制度が十分に機能できていない現実もあります。

業界外の人にはわかりづらい「旅客運輸業の廃止手続き」について、乗合バスを題材に説明します。

注目される「乗合バスの廃止」

2023年は、折からの運転手不足に加えて、コロナ禍中の公共交通利用者数の急激な減少や回復および各種コロナ対策の補助金交付が一段落し、既存サービスの収支の見通しが立てやすくなったためか、乗合バスの大型廃止案件が相次ぎ、乗合バスの廃止問題としては珍しく大手マスコミにも継続的に取り上げられることとなりました。

出典:NHKニュース
出典:読売新聞オンライン

法制度の趣旨

乗合バスは、通勤・通学等に利用している沿線住民にとっては生活に不可欠なインフラの一つであり、事業者の判断で急に廃止されることは認めがたいものがあるでしょう。

日本の道路運送法は、旧来のエリア独占の弊害を取り除くために2002年に参入・退出規制を廃止していますので、廃止にあたって行政の許可は不要で、廃止は届け出制です。しかし、日本の道路運送法は、生活インフラである乗合バスが事業者の判断によりわずかな予告期間で無くなるということを認めたものではありません。

現行の道路運送法の路線廃止に関する制度趣旨は、次の答申に基づいています。

「退出については、事業者の判断により行うことができるよう届出制とすることが適当であるが、利用者に対し十分な事前周知が行われることが必要であり、退出までに一定期間をおく事前届出とし、特に生活路線における退出後の措置を検討するために必要な所要の期間を確保することが適当である。」

「主として地方部を中心として、事業者が路線退出を希望する場合や今後路線の維持が困難と認められる場合に、地域の足をどう確保していくか、その場合の公的補助のあり方、確保するサービス内容等について地域の関係者が協議し、合意に基づく必要な措置が具体的に講じられることが適当である。
このため、都道府県が主体となって、都道府県、関係市町村、事業者、運輸省を主たるメンバーとする地域協議会(仮称)を必要に応じて設置し、協議することが適当である。また、地域協議会での検討状況については、広く関係する住民に公表し、理解を求めることが必要である。
地域協議会の協議の結果は、事業者の経営判断を拘束するものではなく、事業者の退出の自由が確保されることが必要である。」

乗合バスの活性化と発展を目指して~乗合バスの需給調整規制廃止に向けて必要となる環境整備方策等について~
平成11年4月9日運輸政策審議会自動車交通部会答申
https://www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha99/koho99/noribus_.htm

まとめると、次の2点となります。

現行の道路運送法の退出規制の趣旨

  • 利用者に対する十分な事前周知を行うために、退出までに一定期間をおく事前届出制がとられている。
  • 廃止後の対応は地方自治体に委ねられているが、廃止後の代替措置は事業者と自治体からなる協議会であらかじめ検討することとなっており、その検討に必要な時間を確保するための事前届出制がとられている。廃止後の自治体対応について詳しくはこちら

学術的な評価

バスの場合には、ユニバーサルサービスの定義が難しく、サービスの存廃を個別に地域社会が合意していく形をとらざるをえない。しかし2002年の規制緩和以前は路線廃止に関する手続きが不明確であった。これを改め、2001年前後から、路線廃止の可否と事後対応を、県中心の地域協議会か市町村中心の地域公共交通会議という会議にかけて協議することになった。しかし、これらの組織は形骸化したり、廃止を先送りするだけで、将来の公共交通体系を決めるに至らないことが多かった。

寺田一薫・中村彰宏2013『通信と運輸のユニバーサルサービス』(勁草書房)p.84

条文と具体的な適用状況

それでは、このように一定の利用者保護と自治体の対応円滑化をめざした退出規制が、どのような条文のもと具体的にどのように適用されているのかを、2021年9月30日に廃止された、埼玉県幸手市と久喜市にまたがる中田商会株式会社・東鷲宮-コミュニティセンター線を例に見ていきましょう。

事例 中田商会株式会社 東鷲宮-コミュニティセンター 2021年9月30日休止

宇都宮線の駅から周辺の住宅団地までを結んでいた、独立系事業者による独立採算の路線でした。

中田商会 東鷲宮-コミュニティセンター
http://nakadasyoukai.com/rosen.html

路線の休止又は廃止に係る事業計画の変更

路線の休止又は廃止に係る事業計画の変更の届出に関する法令と通達は下記の通りとなっています。半年前までにその旨を国土交通大臣に届け出ることとなっています。

道路運送法第15条の2第1項 路線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業者は、路線(路線定期運行に係るものに限る。)の休止又は廃止に係る事業計画の変更をしようとするときは、その六月前(旅客の利便を阻害しないと認められる国土交通省令で定める場合にあつては、その三十日前)までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。

道路運送法施行規則第15条の5第1項 法第十五条の二第一項の規定により、路線の休止又は廃止に係る事業計画の変更をしようとする一般乗合旅客自動車運送事業者は、次に掲げる事項を記載した事業計画変更事前届出書を提出しなければならない。(後略)
第2項 前項の届出書には、第六条第一項に掲げる書類のうち事業計画の変更に伴いその内容が変更されるもののほか、次に掲げる書類を添付しなければならない。この場合においては、第四条第二項ただし書の規定を準用する。
一 休止又は廃止しようとする路線の路線図及び現況を記載した書類
二 その他地方運輸局長が公示する事項を記載した書類

国自旅第92号「道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の路線等の休止又は廃止に関する手続きの取扱いについて」
I. 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に関する処理

1.路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に係る届出(規則第15条の5)
(1)法第15条の2第1項の届出をしようとする路線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業者は、次に掲げる事項を記載した事業計画変更事前届出書を提出しなければならない。(第1項)
① 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
② 休止し、又は廃止しようとする路線
③ 休止又は廃止の予定日
④ 休止に係る場合は、予定する休止の期間
⑤ 休止又は廃止を必要とする理由(簡潔に記載すること。また、詳細な説明は、別紙によること。)
(2)(1)の事業計画変更事前届出書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。(第2項)
① 休止し、又は廃止しようとする路線の路線図
② 休止し、又は廃止しようとする路線の現況を記載した書類であって次に掲げるもの
・輸送量(最近3年間の実績:主な停留所間の流動データ、平均乗車密度、定期旅客数)
・運行状況(運行回数等)
・収支状況(最近3年間の営業収支実績等)
③ ①②のほか、地方運輸局長(沖縄総合事務局長を含む。以下同じ。)が関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するに当たって参考となる次に掲げる事項を記載した書類
・休止し、又は廃止しようとする路線についてこれまで講じてきた経営努力の内容
・その他当該路線を巡る状況の変化等

中田商会株式会社・東鷲宮-コミュニティセンター線の事例では、事業者の休止希望日である2021年9月30日の半年前にあたる2021年3月31日までに、この届出が行われたとみられます。そしてその旨が、関東運輸局から「関東運輸局報」に掲載する形でインターネット上で公表されました。

休廃止申請の公表

休廃止申請があると、地方運輸局は意見聴取に向けてその旨を社会に対して公表します。

道路運送法第15条の2第2項 国土交通大臣は、一般乗合旅客自動車運送事業者が前項の届出に係る事業計画の変更(同項の国土交通省令で定める場合における事業計画の変更を除く。)を行つた場合における旅客の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。

(意見の聴取)
道路運送法施行規則第15条の6 地方運輸局長は、法第十五条の二第一項による届出(同項の国土交通省令で定める場合における事業計画の変更の届出を除く。)があつたときは、当該届出の件名に番号を付し、その旨を地方運輸局の掲示板に掲示する等適当な方法で公示するものとする。

国自旅第92号「道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の路線等の休止又は廃止に関する手続きの取扱いについて」
I. 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に関する処理
3.路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に係る意見の聴取
(1)事案の公示(規則第15条の6)
① 地方運輸局長は、法第15条の2第1項の届出(旅客の利便を阻害しないと認められる場合を除く。)があったときは、当該届出の件名に番号を付し、その旨を地方運輸局の掲示板への掲示により公示するほか、必要に応じその他の手段により幅広く周知を図るものとする。
② ①の公示の内容は次のとおりとし、届出後速やかに行うものとする。ア 意見の聴取を行う休止又は廃止の届出の件名及び番号
イ 休止又は廃止の届出のあった路線に係る事項であって次に掲げるもの
・一般乗合旅客自動車運送事業者の名称
・路線
・休止又は廃止の予定日
・休止の場合にあっては、予定する休止の期間
・休止又は廃止を必要とする理由(簡潔なものとすること。)ウ 意見の聴取の実施に係る事項
・意見の聴取の申請に関する事項(申請方法、申請受付期間等)
・意見の聴取の実施予定日及び場所

以上の規定に従って、中田商会株式会社・東鷲宮-コミュニティセンター線の休止に関する届け出があったことが、2021年4月8日に関東運輸局から「関東運輸局報」に掲載する形でインターネット上で公表されました。

一般乗合旅客自動車運送事業の路線の休止に関する届出



意見の聴取、意見聴取への参加申請

休廃止申請について、関係地方公共団体および利害関係人から意見の聴取を行う手続きに入ります。公益的事業の参入退出に関して、地方団体および社会一般からの意見申し出手続きを経由させることでより慎重を期すものだといえ、運輸行政の中では「需給調整規制時代の競願時の公聴会」「運賃値上げの際の公聴会」などとして伝統的に活用されてきた政策手法です。ただし、休廃止は自由化されていますので、今日において道路運送法第15条の2第2項に基づく意見聴取の趣旨はむしろ、廃止の可否ではなく、廃止の実施日の繰り上げが可能かどうかについて確認することです。

  • 廃止の実施日を繰り上げてよいかどうか → 道路運送法第15条の2第2項に基づく利害関係人意見聴取
  • 廃止の事後対応 → 地域協議会・地域公共交通会議を通した自治体の判断 詳しくはこちらの記事で

道路運送法第15条の2第2項 国土交通大臣は、一般乗合旅客自動車運送事業者が前項の届出に係る事業計画の変更(同項の国土交通省令で定める場合における事業計画の変更を除く。)を行つた場合における旅客の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。

第3項 国土交通大臣は、前項の規定による意見の聴取の結果、第一項の届出に係る事業計画の変更の日より前に当該変更を行つたとしても旅客の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該一般乗合旅客自動車運送事業者に通知するものとする。

道路運送法施行規則第15条の7 法第十五条の二第二項の利害関係人(第十五条の九において「利害関係人」という。)とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 法第十五条の二第一項の規定による路線の休止又は廃止に係る事業計画の変更の後に当該路線において旅客の利便の確保を図ることが想定される者
二 旅客その他の者であつて地方運輸局長が当該休止又は廃止に関し特に重大な利害関係を有すると認めるもの
第15条の8第1項 法第十五条の二第二項の地方運輸局長の意見の聴取を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した意見聴取申請書を提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 届出の件名及びその番号
三 意見の聴取において陳述しようとする者の氏名及び職業又は職名
四 意見の聴取における陳述の概要及び利害関係を説明する事項
第2項 前項の申請は、第十五条の六の規定による公示の日から十日以内に、これをしなければならない。

国自旅第92号「道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の路線等の休止又は廃止に関する手続きの取扱いについて」
I. 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に関する処理
3.路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に係る意見の聴取
(2)利害関係人(規則第15条の7)
① 法第15条の2第2項の利害関係人とは、次のいずれかに該当する者をいう。
ア 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の後に当該路線において旅客の利便の確保を図ることが想定される者
イ 旅客その他の者であって地方運輸局長が当該休止又は廃止に関し特に重大な利害関係を有すると認める者
② ①アに該当する者としては、別のバス事業者等当該路線の廃止後において路線定期運行を行うことが想定される等が考えられる。
③ ①イに該当する者としては、次に掲げる者が考えられる。
ア 休止又は廃止を予定する一般乗合旅客自動車運送事業者
イ 当該路線の沿線地域の経済団体(商工会議所等)
ウ 当該路線の沿線地域の相当数の利用者が参画し、当該路線に関連する利用者団体
④ ②及び③アの者については、意見の聴取の申請があった場合、必ず意見の聴取を行うものとする。
⑤ ③イ及びウの者については、意見の聴取の申請があった場合、意見の聴取者の数等を勘案しつつ、可能な限り意見の聴取を行うよう努めるものとする。
(3)意見の聴取の申請(規則第15条の8)
① 法第15条の2第2項の地方運輸局長の意見の聴取を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した意見聴取申請書を提出しなければならない。ア氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
イ届出の件名及び番号
ウ意見の聴取において陳述しようとする者の氏名及び職業又は職名エ意見の聴取における陳述の概要及び利害関係を説明する事項
② ①の申請は、公示の日から10日以内に、これをしなければならない。
③ 意見の聴取の申請方法は、次のとおりとする。
ア郵送による申請(消印が公示日から10日以内であること。)
イ地方運輸局、運輸監理部又は運輸支局への申請書の持参による申請

関東運輸局は、このような届け出があったことを「関係地方公共団体」である埼玉県と沿線の幸手市・久喜市に伝達したと思われ、この3団体は公示から10日以内に意見聴取申請書を関東運輸局に提出した模様です。

なお、バス廃止に関する行政の中で「関係地方公共団体」という概念は頻出します。

利害関係人からの意見聴取申請は無かったようで、意見聴取に応じたのは上記3団体のみでした。

意見聴取の実施

意見聴取が2021年5月14日に実施されました。ただし、書面による意見となりました。これがコロナ影響なのか、地方団体と地方運輸局との間で行政慣行の域に達しているのかは現時点では不明です。

意見聴取は公開するものとされていますが、書面聴取であったせいもあり、国自旅第92号通達Ⅰの3の(4)の③「規則第15条の9第2項の「公開」とは、意見の聴取の終了後に適切な方法により意見の聴取の概要を公表することも含むものとする。」に基づき、関東運輸局報による意見聴取概要の公表によって代えられました。

道路運送法施行規則第15条の9第1項 地方運輸局長は、法第十五条の二第二項の意見の聴取をしようとするときは、その十日前までに、関係地方公共団体及び前条第一項の申請書を提出した利害関係人に対し、意見の聴取の日時及び場所(地域協議会において聴取をする場合には、その旨)並びに当該路線の休止又は廃止の内容を書面で通知する。
第2項 意見の聴取は、公開とする。ただし、地方運輸局長が特に必要があると認める場合には、この限りでない。

国自旅第92号「道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の路線等の休止又は廃止に関する手続きの取扱いについて」
I. 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に関する処理
3.路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に係る意見の聴取
(4)意見の聴取の開催の通知等(規則第15条の9)

① 地方運輸局長は、法第15条の2第2項の意見の聴取をしようとするときは、その10日前までに、関係地方公共団体及び意見聴取申請書を提出した者のうちから利害関係人に該当する者(以下「被聴取者」という。)に対し、意見の聴取の日時及び場所並びに当該路線の休止又は廃止の内容を書面で通知するものとする。(第1項)
② 関係地方公共団体からの意見の聴取は、原則として、関係都道府県知事及び関係市町村長から行うものとする。
③ 規則第15条の9第2項の「公開」とは、意見の聴取の終了後に適切な方法により意見の聴取の概要を公表することも含むものとする。(第2項)
(5)意見の聴取の実施時期
地方運輸局長は、意見の聴取については、法第15条の2第1項の届出から 1月半を目途に行うよう努めるものとする。

地方公共団体意見陳述 令和3年5月27日発行(第1836号)

自治体の意見陳述の内容

いずれの自治体も大筋で「休止の影響は大きいので減便による運行継続を検討してほしい」「休止繰り上げは認められない」「休止する場合は十分な周知・説明を行ってほしい」という陳述内容でした。運行継続要請には強制力はなく、自治体として廃止代替する方針を示した内容でもありませんので、事実上、廃止を容認する内容です。3自治体が一致して休止繰り上げには同意しませんでしたので、事業者は法令の本則通り、9月30日まで運行し続ける義務が残りました。この間に事業者から住民への説明が行われ、住民はしかるべき生活行動の変更を行います。

地方公共団体意見陳述 令和3年5月27日発行(第1836号)

廃止代替対応との関係

「意見の聴取、意見聴取への参加申請」において、今日において道路運送法第15条の2第2項に基づく意見聴取の趣旨はむしろ、廃止の可否ではなく、廃止の実施日の繰り上げが可能かどうかについて確認することだと整理しました。

  • 廃止の実施日を繰り上げてよいかどうか → 道路運送法第15条の2第2項に基づく利害関係人意見聴取
  • 廃止の事後対応 → 地域協議会・地域公共交通会議を通した自治体の判断

法令上は道路運送法第15条の2第2項の意見聴取手続きが原則となっています。しかし、2002年改正後の道路運送法の世界では、路線廃止に対しては自治体の廃止代替検討(詳しくはこちら)が重視されていますので、実際には地域協議会・地域公共交通会議にかけることの方が優先されることとなっています。この運用と法令のズレを調整しているのが、国自旅第92号の「道路運送法上の路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の手続と地域協議会、地域公共交通会議又は協議会との関係」という項目です。全文紹介します。

国自旅第92号「道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の路線等の休止又は廃止に関する手続きの取扱いについて」
I. 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に関する処理
2.道路運送法上の路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の手続と地域協議会、地域公共交通会議又は協議会との関係
路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の後の生活交通を確保する措置を円滑に実施に移すためには、路線定期運行に係る路線の休止又は廃止をしようとする一般乗合旅客自動車運送事業者は、休止又は廃止の予定日の6月前までの届出に先立って、地域協議会、地域公共交通会議又は協議会(以下「地域協議会等」という。)において路線の休止又は廃止の意向を申し出るよう配慮するものとする。なお、生活交通の確保方策の検討を円滑に進めるため、地域の実情により、当 該事業者は地域協議会等への申し出以前に関係地方公共団体等に対して積極的な情報提供を行うこととする。

また、道路運送法に基づく意見の聴取の手続と地域協議会等の手続との重複を避けるため、地域協議会等における協議の終了後、道路運送法に基づく意見の聴取等の手続を要しない規則第15条の4第2号に掲げる場合としての届出がなされることが望ましい。
しかしながら、道路運送法上は、路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の届出から6月を過ぎれば、一般乗合旅客自動車運送事業者は、届出どおりに路線の休止又は廃止を行うことが妨げられるものではない。
このため、路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の予定日の6月前より早く当該申出があった場合において、地域協議会等における協議に時間を要するときは、道路運送法に基づく意見の聴取を行う必要が生じることも考えられる。
この場合においては、地方運輸局長は、可能な限り、意見の聴取を地域協議会等(分科会等を地域ごとに組織する場合にあっては、当該分科会等を含む。)の場を活用して行うものとし、道路運送法に基づく意見の聴取である旨を3の手続を通じて明らかにする必要がある。

廃止時期の繰り上げ

廃止時期の繰り上げができるのは、「旅客の利便を阻害するおそれがないと認めるとき」つまり例外と位置付けられています。その内容は具体的には次の通りです。

  • 同じ路線を引き継ぐ新事業者が内定している場合(規則第15条の4の1号)
  • 地域協議会、地域公共交通会議で協議が整った場合(規則第15条の4の2号)→自治体による廃止代替措置が決まっている場合を想定した項目です。これもまた、事前届出規制と廃止代替対応の関係を調整する役割を持っています(廃止代替対応が適切に取られている場合に事前届出規制を無効化する)。
    一方で、地域によっては、本来は例外である「30日以内の退出で問題がないことの合意を地域公共交通会議で得る」行動を事業者が常態化させ、この項目が道路運送法の6か月事前届出規制を潜脱する手段として機能してしまっている実態もあるようです。
  • その他、地方運輸局長が公示するもの(規則第15条の4の3号)
    • 「長距離急行運送」(国自旅92号Ⅰの5の(2)の①)→高速バスなど、通勤通学利用が無く事前届け出規制の必要が無いと考えられるサービスを除外する項目です。
    • 「付替路線」(国自旅92号Ⅰの5の(2)の②)→停留所が変わらず、停留所間の経路のみが変わるもの。
    • 「定期観光」(国自旅92号Ⅰの5の(2)の③)

道路運送法第15条の2第3項 国土交通大臣は、前項の規定による意見の聴取の結果、第一項の届出に係る事業計画の変更の日より前に当該変更を行つたとしても旅客の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該一般乗合旅客自動車運送事業者に通知するものとする。
第4項 一般乗合旅客自動車運送事業者は、前項の通知を受けたときは、第一項の届出に係る事業計画の変更の日を繰り上げることができる。
第5項 一般乗合旅客自動車運送事業者は、前項の規定により事業計画の変更の日を繰り上げるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。

(一般乗合旅客自動車運送事業の事業計画の変更の特例)
道路運送法施行規則第15条の4 法第十五条の二第一項の旅客の利便を阻害しないと認められる国土交通省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 当該路線において他の一般乗合旅客自動車運送事業者が一般乗合旅客自動車運送事業を現に経営し、又は経営するものと見込まれる場合
二 当該路線の休止又は廃止について地域協議会(地域住民の生活に必要な旅客輸送の確保に関する協議会であつて、関係地方公共団体の長、地方運輸局長その他の関係者により構成されることその他の国土交通大臣が告示で定める要件を備えるものをいう。以下同じ。)、地域公共交通会議(市町村長が主宰するものにあつては、当該路線が一の市町村の区域内のみにおいて運行しているものである場合に限る。)又は協議会(市町村が組織するものにあつては、当該路線が一の市町村の区域内のみにおいて運行しているものである場合に限る。)において協議が調つた場合
三 前二号に掲げる場合のほか、旅客の利便を阻害しないと地方運輸局長が認めてあらかじめ公示する場合

(事業計画変更の日の繰上げ)
道路運送法施行規則第15条の10 地方運輸局長は、法第十五条の二第三項の通知を行う場合には、同条第二項の意見の聴取を終了した日から二十日以内に、書面をもつてこれを行うものとする。
第15条の11 法第十五条の二第五項の規定により、事業計画の変更の日の繰上げの届出をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した事業計画変更繰上届出書を提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 休止又は廃止の日を繰り上げようとする路線
三 法第十五条の二第一項の規定により届け出た休止又は廃止の予定日
四 繰上げ後の休止又は廃止の予定日

国自旅第92号「道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の路線等の休止又は廃止に関する手続きの取扱いについて」
I. 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止に関する処理
4.路線定期運行に係る路線の休止又は廃止の日の繰上げ
(1)廃止の日の繰上げの是非の検討
① 法第15条の2第3項の「旅客の利便を阻害するおそれがないと認めるとき」とは、個別の事例にもよるが、例えば、次に掲げる場合が考えられる。
ア 既に関係地方公共団体等の関係者間の調整を経て法第15条の2第1項の届出がなされた場合で、休止又は廃止の後に何らかの形で旅客の利便の確保が図られることが見込まれる場合
イ 特定の施設に係る旅客を専ら輸送していた路線であって、当該施設の廃止により運送が必要でなくなったと認められる場合
② 路線の休止又は廃止の繰上げの是非の検討に当たっては、必要に応じ再度関係地方公共団体の意向を聴取するなど、可能な限り関係地方公共団体の意向を尊重するものとする。
(2)廃止の日の繰上げを行っても旅客の利便を阻害するおそれがない旨の通知等
① 通知の期限について(規則第15条の10)
地方運輸局長は、路線の休止又は廃止の日を繰上げを行ったとしても旅客の利便を阻害するおそれがないと認める場合には、意見の聴取を終了した日から20日以内に、運輸監理部長又は運輸支局長を経由し、当該一般乗合旅客自動車運送事業者に対し、その旨及び繰り上げが可能な範囲を書面で通知するものとする。
② 通知の際の一般乗合旅客自動車運送事業者への要請事項について
地方運輸局長は、①の通知を行う場合には、当該一般乗合旅客自動車運送事業者に対し、路線の休止又は廃止の繰上げを行う場合には、十分な時間的余裕をもって法第15条の2第5項の届出を行うよう要請するものとする。
③ 地方運輸局長は、路線の休止又は廃止の日の繰上げを行うことにより旅客の利便を阻害するおそれがないと認められない場合には、意見の聴取を終了した日から20日以内に、運輸監理部長又は運輸支局長を経由し、当該一般乗合旅客自動車運送事業者に対し、その旨を書面で通知するものとする。
④ 関係都道府県知事等への連絡について
地方運輸局長は、①又は③の通知を行った場合には、遅滞なく、関係都道府県知事及び関係市町村長に対し、当該通知を行った旨を書面で通知するものとする。
(3)休止又は廃止の日の繰上げの届出(規則第15条の11)
① 法第15条の2第5項の届出をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した事業計画変更繰上届出書を提出しなければならない。
ア 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名イ 休止又は廃止の日を繰り上げようとする路線
ウ 法第15条の2第1項の規定により届け出た休止又は廃止の予定日エ 繰上げ後の休止又は廃止の予定日
② 地方運輸局長は、法第15条の2第5項の届出があったときは、遅滞なく、その旨を地方運輸局の掲示板への掲示により公示するほか、必要に応じその他手段により幅広く周知を図るとともに、関係都道府県知事及び関係市町村長に対し、その旨を書面で通知するものとする。
(4)休止又は廃止の予定日の繰下げ
① 法第15条の2第1項の届出をした一般乗合旅客自動車運送事業者は、事業計画変更事前届出書に記載した休止又は廃止の予定日までに、届け出ることにより、当該予定日を繰り下げることができる。
② 地方運輸局長は、①の届出があったときは、遅滞なく、その旨を地方運輸局の掲示板への掲示により公示するほか、必要に応じその他の手段により幅広く周知を図るとともに、関係都道府県知事及び関係市町村長に対し、その旨を書面で通知するものとする。

5.法第15条の2第1項の「旅客の利便を阻害しないと認められる場合」の範囲
(1)「旅客の利便を阻害しないと認められる場合」とは、次に掲げる場合とする。 (規則第15条の4)
① 休止又は廃止に係る路線について、他の一般乗合旅客自動車運送事業者が路線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業を現に経営し、又は経営するものと見込まれる場合
② 路線定期運行に係る路線の休止又は廃止について地域協議会(地域住民の生活に必要な旅客輸送の確保に関する協議会であつて、関係地方公共団体の長、地方運輸局長その他の関係者により構成されることその他の国土交通大臣が告示で定める要件を備えるものをいう。)、地域公共交通会議(市町村長が主宰するものにあつては、当該路線が一の市町村の区域内のみにおいて運行しているものである場合に限る。)又は協議会(市町村が組織するものにあつては、当該路線が一の市町村の区域内のみにおいて運行しているものである場合に限る。)において協議が調った場合
③ ①②のほか、旅客の利便を阻害しないと地方運輸局長が認めてあらかじめ公示する場合
(2)(1)③については、少なくとも次に掲げる場合を定めるものとする。
① 規則第10条第1項第1号ロに規定する長距離急行運送等に係る路線の休止又は廃止の場合
② 付替路線(停留所の位置の変更がないものに限る。)の開設に伴う路線の休止又は廃止の場合
③ 規則第10条第1項第1号イに規定する定期観光運送に係る路線の休止又は廃止の場合
(3)(2)に掲げるもののほか、次に掲げる場合等において、地域の実情を勘案しつつ、地域協議会等においてあらかじめ合意された(地域協議会等が設けられていない地域については、当該地域の関係地方公共団体と協議をして同意を得た)基準に該当するものについて、公示を行うものとする。
① 休止から長期間経過した路線の廃止の場合
② 極めて短距離の区間の休止又は廃止の場合
③ 路線の沿線地域の住民の日常的な利用がない路線の休止又は廃止の場合
④ 休止又は廃止の路線と近接して他の路線が存在し、当該他の路線又は交通機関の利用により目的地への移動が可能な場合

乗合バスの廃止の仕組みの問題点

上記で長々見てきたように、道路運送法が予定している乗合バス休廃止制度は、生活に密着したサービスである乗合バスサービスを事業者が任意に随時廃止してしまうものを予定したものではなく、事案公示や意見聴取を通した社会一般とのコミュニケーションや地方公共団体による廃止代替対応の円滑化を意図したものとなっています。

しかし、昨今報道されている路線バス廃止事案については、やはり利用者側から見ると唐突に廃止されている印象がぬぐえません(特に大規模事業者の一部路線廃止)。なぜこのようになっているのでしょうか。

問題の一つは、地方運輸局の事案処理の実態が道路運送法の廃止事前届出制度の趣旨を具現化するものに必ずしもなっていないことです。関東運輸局はインターネット上の「局報」で廃止事案を公表していますが、他の地方運輸局の中にはインターネット上で公表せず、いまだに局舎への物理的な張り紙で「公示」しているところがあります。関東運輸局の「局報」も、プレスリリースなどに比べるとわかりにくい媒体でしょう。このように、地方運輸局が廃止事案処理の領域において広範な社会とのつながりを十分に確立できておらず、事業者と関係地方公共団体という「業界内」に活動がとどまっている状況があります。

廃止事案の処理手続きについて社会一般から把握・検証できない状況の下では、関係者が社会一般・利用者からのプレッシャーを感じずに行動することとなり、原則と例外が通達ベースで複雑に入り組む裁量的な制度も相まって、事前届出規制の運用から厳格さが失われる恐れがあります。

少なくとも、地方運輸局による廃止事案の処理手続きに関する情報提供をよりわかりやすく・積極的なものとすることを通して、廃止事案が社会から見えるようにし、関係者が社会から見られていることの緊張感を持ちながら事前届出規制を制度が本来予定している通りに実践していくことが求められるでしょう。

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