学説紹介:竹内伝史

地域公共交通の学説
地域公共交通の学説

竹内伝史は、土木計画学分野としてはかなり早い段階で域内公共交通の問題に着目した研究者で、その主要著作は1990年代~2000年代に集中しています。主著に、加藤晃・竹内伝史1992『都市交通論』(鹿島出版会)、竹内伝史2011『地域交通計画:政策と工学』(鹿島出版会)。

竹内伝史は、公共交通の基本的な研究課題を包括的に提示してくれているのが特徴的で、先行研究レビューの起点にできる場合が多いと考えられます。以下、主な議論と文献を紹介します。

公共交通の位置づけ

  • 公共交通サービスの供給は、すべての市民の足を守るための行政行為であって、そのための交通事業を実際に運営する政府企業や民間事業体はあくまでその手段である。事業体の経営がうまく行かないならば、まずその運営効率の改善や事業制度の改革を考えるべきであって、事業収支の赤字化や累積債務の増嵩が直ちに事業の廃止に直結するものであってはならない。(2010)

交通市場への認識

  • 自動車の普及によって、今日では多くの市民は交通手段を選択する機会を持ち、いくつかの交通手段の中からより便益の大きいものを選択する自由を持っている。つまり、都市交通サービス市場は、各種の規制はあるものの、基本的には、交通手段間の自由な競争の中にある。(1997)
  • 自動車の普及によって、①公共輸送事業者は免許によっては独占を保証されなくなった。②マイカーを含む都市交通競争市場の中で自動車を自由に使えない人々が取り残され、要措置集団として登場した。市場全体が一貫した政策で管理されるべきにもかかわらず、運輸行政は公共輸送に対してしか行政権限を持っていないことが問題である。(1994a)

需給調整規制への評価

  • また企業の効率性と合理性を究極的に担保するものは、市場における企業間の自由競争である。この意味から,前節に述べた免許制度(地域独占権の付与)は大きな問題を内蔵している。とくに、バス事業のごときは、今日ではそれほど大きな(競争での敗北,撤収が社会的に大きな無駄となるような)資本整備を必要としていない。このような分野や、資本整備を公共の負担において行うような場合には、早急に競争の回復をもたらすような、いわゆる規制緩和が必要であろう。(1994a)
  • (要旨)需給調整規制は、明治の陸上交通事業発祥時に重複投資の無駄を防ぐために独占権を付し、代わりに運賃を監督したもの。このシステムの下では、運輸行政は企業の監督と健全な事業育成が主眼となる。しかし、自家用車が普及すると、交通事業者の独占は崩れ、事業者監督による交通確保は意味を失う。交通市場全体を管理する行政のありかたが必要。(1994a)

公共交通の生産性管理の難しさ

  • サービスは生産と消費が同時に行われ、貯蔵が効かないから、市場の需給関係を客観的に観察することが難しいし、目に見えないこともあって、生産量を記録することすら容易ではない。(1994a)
  • 公共輸送サービスは労働集約型産業であるから、独立採算制の企業制度を一度外すと、生産性管理が難しくなり、直ちに効率性を失ってしまうおそれがある。いかに公共性を重視する公営事業であっても、より低い経費での事業を推進するという目標は外せないから、この企業性の追求もはずせないということになる。(1994a)
  • このように,公共輸送事業の公共性と企業性の二律背反の溝を埋める方策として、企業への外部補助(これは大低公共補助を意味する)が必要であることは,今日では大方の賛同を得るところとなっている。ところが,安易な外部補助の導入は,上述の生産性管理を台なしにし、企業の効率性を喪失させることは,これまた識者の一致した見解である。ここに、この公共輸送事業者への外部(公共)補助の決定(または算定)基準と補助下での生産性管理方式の確立が,公共輸送制度上の一大課題として登場してくることとなった。(1994a)

バス経営論

  • バスサービス市場は分化しており、それに合わせてバスサービス自体も機能分化するべきである。(1997)

官民関係

  • さらに自由な交通市場とは競争する交通市場でなければならない。路線を設定し,最低サービス水準を決定する政策とは分離して,各路線の運営には競争が不可欠である。競合路線の設定が許されないような,あるいは路線経営が困難なほどの需要の薄い地域にあっても,一定の公共補助の導入(補助の理念とルールづくりが必要であるが)を前提とした,路線運営請け負いの競争入札制度が考えられるのではなかろうか。(1991)

地方行政における公共交通関係組織のありかた

  • これらの政策や監督行政は国のレベルにおいては運輸・建設・警察等多くの省庁の各局に分担されて,縦割りで所管されているから,都市行政においては総合交通政策にのっとって,これらの縦割り行政の末端を調整し,横糸を通す作業が必要である。このためには,この担当部局として,国の縦割りの末端に位置づけられた各部局の外にあって,首長の直轄下にあるような総合調整・企画部門を設けることが望ましい。このような部門では総合交通政策を策定するばかりではなく,予算調整と各実施部局間の施策調整と推進管理を行うことになる。また,非定常的な事案についての中央省庁や関係官署との交渉窓口を引き受けることになるかもしれない。とくに,都市圏内自治体で一部事務組合を構成する場合には,この部門が組合に属することになる。このような組織は,米国におけるポートオーソリティと類似点の多いものとなってくる。この点を考えならば,長期的展望としてはこの組織に,特定財源としての一定の課税権を賦与することが考えられる。それは、次に述べる地方財源問題をはじめ、他に述べた多くの課題も一挙に解決する制度上の大改革となることであろう。(1994a)
  • 1994bにおいても「行政改革の受け皿づくりとしての組織と財源」を議論。
  • 公共輸送計画は一定の交通圏を単位に策定されることが望ましい。方法として①市町村合併を促すものから、②一部事務組合方式、③広域計画のみ共同策定し後は個々の市町村がそれぞれの行政区域内について対応する方式(2000)

公共交通サービスの事業評価のありかた

  • 次の3点が主となるべきである。(2010)
    • 1サービス空白地区がいかに減少し、新たに公共交通が利用可能になった人々(とくにそれを必要とする階層の)がいかに増えたか
    • 2上の利用可能な人々のうち、どれだけが利用者として姿を現したか(顕在化率)
    • 3当該公共交通サービスがいかに効率的に(とくに公共支出が少なく)供給できているか

地域公共交通活性化再生への評価

  • 依然として事業収支至上主義が伺える。路線ごとの赤字額や収支率に議論がからめとられている傾向がある。利用者の増加のみに偏した事業診断でしかなく、公共政策の評価になっていない。(2010)

文献

  • 竹内伝史1991「名古屋大都市圏における公共輸送体系整備 モータリゼーション下の現状と課題」運輸と経済1991年3月号
  • 竹内伝史1994a「地方都市の公共輸送における制度的課題」運輸と経済1994年1月号
  • 竹内伝史1994b「都市の公共輸送事業制度確立にむけて各論的提言」運輸と経済1994年4月号
  • 竹内伝史ら1997「都市バスの機能分化をめざして 名古屋市交通問題調査会第四次答申の概要」運輸と経済1997年10月号
  • 竹内伝史2000「需給調整規制の廃止に伴なう地方自治体の新任務、公共輸送政策」運輸政策研究2000年
  • 竹内伝史2010「公共交通事業見直しの潮流に抗う」運輸と経済2010年2月号
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