地域公共交通活性化再生行政の事業評価制度の性格に関する一考察

論説
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何玏(芝浦工業大学大学院博士課程)

「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in上田」の論集に投稿した標記論考を転載します。

はじめに

地域の公共交通をどのように運営するかはその地域(自治体)の自己決定に属する問題であり、地方公共団体の交通政策について国が評価・監督する必要性は乏しい。地方分権時代の国・地方関係を踏まえればいっそう国による評価・監督は正当化しづらい。しかし、地域公共交通活性化再生行政の分野では、地方公共団体が地域公共交通活性化再生の取り組みについて毎年国に自己評価を提出し、国による評価を受ける仕組みが構築されており、多くの自治体が国の評価(査定)を毎年受けている。本稿では、地域公共交通活性化再生行政の事業評価制度の成り立ちを整理し、地方分権の観点からその性格を批判的に考察する。

1.制度概要

地域公共交通活性化再生行政の事業評価制度は、地域公共交通確保維持改善事業費補助金に基づく国庫補助事業の事業評価制度である。

地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱第3条5項において、地域公共交通活性化再生法に基づいて組織される法定協議会は、「補助対象事業ごとに補助対象事業について評価を行い、その結果について地方運輸局又は地方航空局の長に報告しなければならない。」と定められている。地域公共交通確保維持改善事業実施要領の8において、自己評価、二次評価の順に行われること、二次評価は地方運輸局に第三者評価委員会を設置して地方運輸局が作成した二次評価案について審議すること等の具体的手順が定められている。地域公共交通確保維持改善事業に関する事業評価実施細目にさらに具体的な事務要領が定められている。事業評価の手引書として「事業評価を通じた地域公共交通確保維持改善事業の効果的実施に向けて(ガイダンス)」「地域公共交通に関する事業評価の手引き」が発行されている。

2.制度の問題点

事業評価の観点が単一であり、地方の取り組みを制約・画一化する恐れがある。地方公共団体は、「地域間の移動者数、収支、運賃収入、経費、公的資金投入額」に関する自己評価を求められるが、これは国が国庫補助金の執行効率を高めるために必要としている指標である。こうした義務化された評価指標が、地域の自主的な取り組みの評価軸を上書きしてしまう可能性がある。

次に、他領域の政策に比べて、国の事業評価の対象が広く解釈されている。本来、当該事業評価制度は国庫補助事業の執行効率に関するモニタリングの仕組みに過ぎないが、例えば中部運輸局では「地域全体の交通ネットワーク評価」を行うものとして事業評価対象が拡大されている。「地域の交通政策全体が国の評価・監督対象である」という認識を地方公共団体にもたらしている可能性がある。

最後に、補助額に比べて、評価を受けるにあたっての工数が多いことである。市町村レベルであれば500万円程度(地域内フィーダー系統国庫補助または地域公共交通調査事業のそれぞれについて)の国庫補助額に対して、第三者評価の受審が強く推奨され、第三者評価受審のためにはパワーポイント説明資料の作成、出席しての説明、学識経験者からのコメントの聴取等が課せられる。他分野の国庫補助に比べても、補助額に比べた手数が多い。

3.制度創設経緯からの考察

地域公共交通活性化再生行政の事業評価制度の問題点を制度創設経緯から考察するためには、地域公共交通活性化再生行政の2011年以前・以後の変化を踏まえることが必要である。

法制定当初の地域公共交通活性化再生行政(地域公共交通活性化・再生総合事業)は、革新的な取り組みを行う自治体を国が選定して経費の1/2を3年間補助する、選別主義的・政策コンテスト型の「頑張る地域応援制度」であった。この仕組みが2009年に事業仕分けで否定され、2011年からは、従来から存在した地方バス路線維持費補助制度を地域公共交通活性化再生行政に付け替えて、「生活交通サバイバル事業」として、自治体の生活路線の維持を支援する補助制度となった。「頑張る自治体応援制度」として組まれた制度が、自治体の定常的な「生活路線維持」と接続してしまったところに地域公共交通活性化再生行政の様々な問題の原因があるが、事業評価制度もその一つである。

現在の事業評価制度は、地域公共交通活性化再生行政がまだ「頑張る地域応援制度」であった2008年に、関東運輸局が「地域公共交通の活性化・再生の評価に関する検討委員会」(座長:喜多秀行)を設置したところから制度設計が進められた。この検討委員会の報告書は、自治体が交通計画をよりよく進行管理するための内容であった。当時は「頑張る地域応援制度」として1自治体当たりの補助額も多く、分厚い事業評価システムは補助額に見合っていた。筆者のインタビューに答えた喜多によれば、第三者評価も、現在のように国側の立場で学識経験者が自治体を査定する制度ではなく、国による二次評価を学識経験者が第三者的な(国から独立した)立場から評価し直す仕組みとして構想したものだという。同様に、国による評価制度の創設・強化自体も、当時の「総合事業」は実際には手を挙げた地域に薄く広く補助金を配分する傾向が強く、これでは頑張る地域への選別主義的な支援にならないという問題意識から、選別主義を強化する一環として構想したものだという。これ自体は、選別主義的な「頑張る地域応援制度」の趣旨を貫徹しようとするものとしては筋が通っていた。

問題は、こうして構想された事業評価制度が正式に運用を開始した2011年には、外部環境の変化により、地域公共交通活性化再生行政自体が「頑張る地域応援制度」ではなくなっていたことである。事業評価制度の内容については見直されないまま、生活交通維持の取り組みや交通計画の策定に対して国の関与の強い事業評価が行われる結果となった。

2011年の補助制度改正で新たに創設された国交省から市町村向けの補助制度である「地域内フィーダー系統国庫補助」は、特別交付税措置と補助対象が重複するため、真水の効果は補助額に比べて小さい。しかし、国交省はフィーダー補助の利用を市町村に強く推奨している。フィーダー補助を市町村が受給し始めると事業評価制度の対象となることも関係している可能性がある。

おわりに

この間の地域公共交通活性化再生行政では、地方自治体には能力が十分にないから国が関与するのだというパターナリズムがある。しかし、地方が真に実力をつけるためには、いかなる行政分野であれ、地方にリスクを負担させ、権限と責任を対応させることが常道である。まずは、地方の多様な取り組みを制約しえて、過大な負担を負わせうる事業評価制度について見直し、国の指導・監督的な関与を減らすことが必要だろう。

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