地域公共交通活性化再生をどう理解するか

論説
論説

現在、地域公共交通活性化再生の取組がますます重要になっています。しかし、この行政上の概念は、他の国にはあまり見られない独自性を持っていることも事実です。

事業に着目していることが特徴

地域公共交通活性化再生行政の基本的観点は、地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針(平成26年総務省告示・国土交通省告示第1号)を通して知ることができます。

前文に典型なように、公共交通事業の現状に着目し、公共交通事業の持続性を問題にしています。

我が国では従来、地域における旅客の運送に関するサービス(以下「地域旅客運送サービス」という。)の提供の確保は、民間事業者の能力を活用して、利用者のニーズを前提として、それに対応するよう輸送サービスを提供するという形で進められてきたところである。

しかしながら、近年、人口の急激な減少や地域公共交通を担う運転者不足の深刻化に伴い、地方部をはじめとして、民間事業者による輸送サービスの提供の継続が困難となる地域が増加している。

他方、高齢化の進展や、高齢者による運転免許証の自主返納が進みつつあること等から、自家用自動車を運転できない高齢者等の移動手段としての公共交通の重要性が増大しており、こうした地域においては、地方公共団体をはじめとして交通に関わる様々な主体が相互に協力し、地域が一体となって地域旅客運送サービスの持続可能な提供を確保することが不可欠となっている。

さらに、地方の中小の都市部など、民間事業者による輸送サービスの提供が可能なエリアにおいても、都市機能や居住の誘導といったまちづくり施策、さらには、近年の訪日外国人観光客の急増も踏まえ、交流人口を増加させるための観光施策などと十分に連携して交通施策を進めることにより、将来にわたって地域旅客運送サービスの持続可能な提供を確保し、地域の活力を維持するとともに、個性あふれる地方の創生を推進していくことが求められている。特に、複数の民間事業者が存在するエリアにおいては、事業者同士の連携を強化する取組を進めることが求められている。

地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針(平成26年総務省告示・国土交通省告示第1号)

公共交通は政策目的なのか、政策手段なのか

それ自体は不採算だが公的負担で維持されている交通サービスは、公的主体がどこまで明確に認識しているかどうかは別として、それは他の政策目的を達成する手段として公共交通サービスを維持しているという構造があります。

公共交通が行政目的を達成するための手段であると割り切った場合には、問題の認識は例えば次のようになるはずです。

  • 公共交通のサービス低下により住民の生活に悪影響が出ている
  • 公共交通のサービス低下によりマイカーが増大し、都市の円滑な機能や都市のありように悪影響が出ている

公共交通事業の持続性に着目するという立て付けでは、公共交通事業を存続させられる範囲内でこれらの地域課題に対応するという形で、ビジョンの切り下げが起こる可能性があることに留意する必要があります。

着目しているのは公共交通の不採算問題

公共交通事業の持続性に着目することは、言い換えれば、公共交通の不採算問題を政策のスコープとしているということが言えます。

“地域”公共交通というと、空間的に都市内・地域内の交通であることが含意と考えられがちですが、実際には「不採算公共交通」の政策体系と捉えることで、その本来的役割がクリアに見えてくるかもしれません。

もっとも、不採算公共交通のことを「地域公共交通」と称することは、考えてみればそれなりの根拠があります。都市内・地域内の公共交通の特徴はマイカーと競争関係にあることであり、公共交通は交通市場の部分集合でしかありません。渋滞や事故などの外部不経済があるマイカーと素手で戦えば、公共交通は必ず不利になりますので、「地域(内)の」公共交通は不採算になる構造を持っているのです。

一般に、高速バスや特急・新幹線・航空に対して地域公共交通活性化再生の取組が必要ないのは、それらが完全市場を形成しており、構造的な不採算問題が存在しないからです。

公共交通の不採算問題という切り口は非常に重要です。しかし、不採算だが社会的に必要な公共交通というのは、もはや自立した産業・事業というよりも、公共政策の手段・公共サービス・社会資本という位置づけになるはずです。公共交通の不採算問題という切り口を有意義なものにするためには、公共交通事業の護持を目的化せず、公共交通を手段と割り切ることが前提になるのではないでしょうか。

交通全体の課題というよりも公共交通が無くなると直ちに困る事柄に関心

地域公共交通活性化再生システムが、住民の暮らしや都市の交通機能・都市のありようというよりも、ともすれば公共交通事業の持続性にまずは関心を持っていることを見てきました。

公共交通事業の持続性が問題意識の入り口であれば、その問題意識は自ずと「無くなって直ちに困ること」に行きつきます。例えば、高齢者や中山間地住民の「足の確保」はわかりやすい問題認識です。

逆に、交通市場全体の中で公共交通のシェアが低いために起こっている社会的不具合のようなものには、あまり関心を持たないということにもなりがちです。公共交通に着目していると、公共交通の外側の問題はあまり見えなくなります。

実際、多くの地域公共交通計画等では、マイカーを減らすという目標を掲げていません。あるいは、バス利用者を増やすという目的を立てていても、それはマイカーの外部不経済を減らすというよりも、公共交通事業の存続に有利だからという観点に基づいているかもしれません。

最初から「マイカーの残余市場」=マイカーを使えない人、公共交通が無くなって困る人=に着目しているのが地域公共交通活性化再生システムのスコープだと言えるでしょう。

不採算問題に対してはサービス設計で対応

地域公共交通活性化再生は、実際には公共交通の不採算問題と向き合っている政策体系とも言い換えられると指摘しました。不採算=利用者負担だけでは経費を償えない=であるからには、社会的合意に基づいて、ある程度安定的な財源の確保が必要です。

しかし、現に策定されている各地の地域公共交通計画を見ると、サービス設計を変更することで、今までよりも利用者を増やしたり、サービス供給量を削減することで「効率をよくして」持続性を高めるという内容が少なくありません。不採算問題に対して、社会的合意に基づいた資金投入というよりも、サービス設計の変更で無駄を減らすという方向に重点が置かれていることに特徴があります。

資金不足という病因よりも、サービス設計の不具合(使えないバス)という症状により多くの問題を見出しているとも言えます。

担い手の拡大で対応する路線も

地域公共交通活性化再生システムは、公共交通の不採算問題に対して「担い手の拡大」で乗り切ろうとしてきた歴史でもあります。住民の有償ボランティアで足の確保をすることを認めた自家用有償旅客運送(市町村運営を除く)がその典型です。

住民の善意の取組を阻害しないことは重要です。一方で、住民の努力に委ねていては解決しない問題もあります。公的主体の果たすべき役割の輪郭をはっきりさせておく必要もあります。

規範の議論が必要

ところで、不採算公共交通は、利用者以外も負担して供給されます。独立採算の公共交通と異なり、その供給水準は一定の社会的意思決定のもとに行われます。ここにおいて、地域社会として・国家として、公共交通を通してどこまでの水準の生活保障を行うか、なぜ行うのかという「規範」の議論が必要になります。

例えば次の論文は、公共交通のサービスレベルがもとから低い環境では、その制約から、住民が思い浮かべるニーズに切り下げが起こるため、アンケートで表明されたニーズを目印に公共交通政策を行うことは倫理的に問題を抱えている可能性があると指摘しています。

地方における公共交通計画に関する一考察
J-STAGE

幅広い取り組みを

公共交通の不採算問題に着目し、サービスの改善で公共交通がより役に立つようにするという「地域公共交通活性化再生」の政策制度は、現状を改善する手段の一つには違いありません。

一方で、公共交通の不採算問題に対応するためには、サービス設計で対応するには限度があり、公共交通の確保を通して達成する政策目的と必要経費に関する社会的議論を避けられないはずです。その先にこそ、合意された政策目的を費用効率的に実現するサービス設計の議論が要請されると考えます。

また、都市部においては、公共交通だけでない全交通市場やまち全体を見渡した時に、マイカー過多による問題はまだ山積しています。細く長く公共交通を守り生かすだけでなく、公共交通を底上げしてマイカーから転移させることで都市問題を解決する「攻めの政策」が必要です。

現場での実践こそ真理という立場もありますが、それが行き過ぎると非生産的な担い手批判(努力していないから悪い)に陥ることも無きにしも非ずです。社会的問題を扱うからには、状態が属人的に左右されることは良い状態とは言えず、最終的には仕組みで解決されることを追求するべきだと考えます。

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