日本の議論ではよく、自治体には専門知識がないから公共交通は任せられないと言われます。しかし、よく見ると日本でもすでに欧州並みに自治体運営バス=コミュニティバスを立派に機能させている都市・地域がいくつもあります。
コミュニティバス、自治体運営バスとは
コミュニティバスは、独立採算原則・企業原則に従わないバスであることが本質的な特徴です。小型バスを使う、支線系を担うことが多い、等のサービスの外形の特徴は単なる結果であったり、あるいは余計な意味づけのことが多いでしょう。
「コミュニティバス」は世界的にみればイギリス由来の単語ですが、日本のそれは本家とは別の意味で使われています。コミュニティバスという名称は一種の擬制が含まれており、客観性がありません。本稿ではより本質を表す一般名称として「自治体運営バス」を用います。
これでいえば、廃止代替バス(中部運輸局管内でいう「自主運行バス」)も自治体運営バスという点でコミュニティバスと同じカテゴリということになります。
コミバス都市はどうして生まれた?
コミバス都市は北関東に多く存在しますが、それはコミバス都市の典型的な成り立ちを反映しています。
北関東は元来、需給調整規制=エリア独占型交通事業時代=は東武鉄道(バス)、関東鉄道(バス)などの営業エリアでした。
需給調整規制廃止までは、地方過疎バス補助は事業者補助であり、黒字事業者には交付不可でした。そのため、上記黒字事業者の赤字エリアである北関東は国の補助制度に全く救われない領域となり、内部補助力が限界を超えた段階で廃止が進行していきます。
民間バスの完全撤退に伴い、自治体運営の代替バスが陸続と運行開始。それらが20年をかけて、まとまりある自治体運営バスとなっているのが北関東のコミバス都市です。
きっかけこそ民間バス事業者の撤退という消極的な出来事でしたが、それによりかえって欧州レベルの公共サービス型公共交通が実現しているということで、既存民間バス路線への捉え方などを考えさせられる事例と言えるかもしれません。
コミバス都市まとめ
茨城県つくば市 つくバス
茨城県桜川市 ヤマザクラGO
栃木県足利市 あしバスあっしー
栃木県日光市営バス(例えば、鬼怒川温泉女夫渕線)
1980年代に東武バスが撤退した路線を自治体が引き受けたもので、30年以上の歴史を有します。
栃木県小山市 おーばす
群馬県桐生市 おりひめバス
群馬県 多野藤岡地域代替バス「奥多野線(かんながわ号)」
上信電鉄の廃止バス路線を、沿線の関係自治体複数が一部事務組合を構成して引き受け。複数自治体による行政運営バス(コミュニティバス)として特色のある事例。日本に実在する運輸連合ともいえる。類似のものとしてはほかに、東武鉄道の廃止バス路線を引き受けた館林市ほか4町による「広域公共路線バス」。
群馬県伊勢崎市 あおぞら
群馬県館林市公共路線バス
埼玉県ときがわ町
データドリブンなサービス改善で有名。受託事業者のイーグルバスが表に出て取り組みを紹介する場面が多いが、町役場も明確な考えで取り組んでいる。
新潟県旧東頚城郡6町村
石川県能美市 のみバス
北陸鉄道の廃止バス路線を能美市が引き受け。コミュニティバス転換後に公共サービスの考え方からサービス改善を行った結果、利用者数が増加するなどの効果もあった。
長野県 南信州公共交通
複数市町村の共同運営を実現しています。
長野県上田市 運賃低減バス
事業者主体という立て付けこそ変えていないが、運賃面で全面的に公的関与を行った事例。(終バスを非常に遅く確保しているのも特徴)
岐阜県揖斐川町
総コミュニティバス化と運行事業者の一元化
平成17年1月に1町5村の合併により新たに誕生した揖斐川町では、利用者の減少に伴う鉄道・路線バスの相次ぐ廃止により、公共交通空白地域が増加したことに対し、平成18年10月から、それまで交通事業者の自主路線として運行されていた2路線を含めた全路線を揖斐川町コミュニティバスとして総コミュニティバス化し、路線を再編するとともに、利用しやすい料金体系(ゾーン制運賃)に移行しました。また、全路線を1事業者に委託したことから、路線相互のダイヤ調整が容易になりました。
京都府綾部市 あやバス
京都府京丹後市 200円上限バス
有名な事例。事業者主体との立て付けこそ変えていまないが、運賃面で公的関与を全面化した事例。
神姫バス→兵庫県加古川市「かこバス」
神姫バス 加古川駅~播磨町線及び東加古川駅~本荘~土山駅南口線、神姫バス加古川駅~高砂駅線の休止を、自治体運営バス「かこバス」浜手ルートで代替(2020年)
民間事業から自治体サービスに転換した結果、大幅増便と値下げが実現。
https://www.city.kakogawa.lg.jp/material/files/group/63/20200825gijigaiyo.pdf
和歌山県旧那賀郡4町
島根県安来市
合併により単独市による自治体運営バスとなったが、合併前は一部事務組合による広域連携型の自治体運営バスであった。広域連携の注目事例。
高橋愛典2001「地域バス運行の民間委託 規制緩和後における路線網の維持・展開の方策として」(早稲田商学2001-3)が詳説。
広島県江田島市
江田島バス https://etajimabus.jp/
江田島市が株式のほとんどを保有する会社組織。市町村合併前は、複数市町村が株式を持ち合う企業だった。日交研シリーズA-341『規制緩和後の乗合バス市場と自治体の対応』および寺田一薫編著2005『地方分権とバス交通』に詳細あり。
寺田は本事例を引き合いに「(取り上げられることが少ないが)第三セクターによるバス運営という道があるのではないか」と指摘している(寺田一薫編著2005『地方分権とバス交通』はしがき)
香川県三豊市
市外乗り入れ
熊本県球磨村
総コミュニティバス化と村内路線全体の再編
球磨村では元々民間バス2路線と市が運行する福祉バス6路線が運行されてきましたが、利用者の減少などにより村の赤字補てん額が年々増加している状況でした。この状況の解決のため、球磨村では村内の民間バス路線全路線(2 路線)を廃止し、1 路線を交通事業者に運行委託し基幹路線として運行、他の路線は村が運行管理、運行をタクシー事業者が担当するフィーダー路線として幹線に接続する形で、市内路線全体のルート・運行頻度・運賃の見直しを行いました。