佐藤飛来(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程)
はじめに
日本において公共交通サービスはかつての国鉄や都市部の公営事業者を除き、その多くが民間事業者によって担われてきた。民間事業者による交通サービスは独立採算を前提としているが、その一方で約半世紀[1]にわたって行政による体系的な公共交通運営費補助政策が組まれてきた。寺田(2013)[2]はネットワーク全体としての補助金依存度について、主たる欠損補助に加え、各種車両補助、高齢者優待乗車証、軽油引取税の運輸事業振興助成交付金[3]などを含めると少なくとも年間2,000億円が公的補助としてバスネットワークに投入されており、割合としては20%かそれを少し下回るくらいを補助金に依存していると指摘する。裏を返せば日本では約8割を独立採算で賄っていることになるが、巷で言われているように欧米と比べて日本の独立採算度だけが突出して高いということはないが、[4]それでもかなり高い部類であることは間違いない。その分、公的補助よりも事業者ごとのサービス間内部補助[5]への依存度が大きいことが日本の公共交通サービス供給の特徴であるといえる。
本稿では以上のような日本の公共交通サービスの置かれた状況を前提として、日本の公共交通補助制度について、「地方部の公共交通が誰の、どういう判断に基づく、どういう補助金で維持されているのか」という観点を軸に紐解いていくことを目指す。
本稿の構成は以下の通りである。まず、I 現行制度では現行の制度を概説する。次にII 成り立ちでは1970年ごろからの公共交通補助制度の変遷を順に解説する。III 補助制度に関する論点 ではそこまでの解説を背景に各論点について検討し、IV 補助要綱の解読例では制度の理解を活かして実際の自治体の補助要綱を解読する。
公的補助制度は、特に地方部の公共交通サービスが公的補助を前提として供給されている現状では、下位の政府の政策判断(公共交通の計画など)や事業者の経営判断(路線の減便や休廃止など)に大きな影響を与えている。すなわち、補助制度により地表に生み出されるネットワークが左右され、地域住民の生活に影響を与えることになり、地域公共交通について検討するうえで補助制度に着目することは近年ますます重要になっている。
また、日本では鉄道と比べても地方バス補助については手厚い措置が取られてきたのだから、それに着目して交通政策を議論する必要があるといえる。
近年では「創意工夫」や「共創」をキーワードに、補助金制度も含め地域公共交通政策の変化は頻繁かつ多岐にわたるが、その一方で地バス補助から連綿と受け継がれる基本的な軸も存在する。研究者であっても変遷のすべてを追うのは難しいほど、地域公共交通政策・制度は複雑なものになっているが、その理解に本稿が少しでも助けとなれば幸いである。