当会でも磐越道部活動バス事故に重大な関心を抱いており、二人の有識者をお訪ねしてコメントをいただきました。いずれも、インタビューに基づいており、要約の文責は当会が負います。
福島学院大学 寺田一薫教授
――磐越道部活バス事故の受け止めは。
交通事故なので、人・車・道路構造のいずれかまたは複合的な問題。バスが介在すると、人の問題にクローズアップされがちだが、車・道路構造の側の問題にもバランスよく目を向ける必要がある。
――貸切バスが高いので運転手付きレンタカーにしたのではないかという話も出ている。
レンタカーに運転手がついてくるサービス形態は2000年頃までは多くあり、規制緩和でそれらが正規の貸切バスサービスに吸収されたはず。今回の事業者の行動は意味不明。2014年以降の貸切バス公示運賃制度だが、運賃を上げれば収入の増分が安全投資に向かうという前提はおかしい。あるいは、給与を上げたら比例して運転手は安全運転するようになるのか? ただこの問題は、バス産業においては事故件数が少なすぎることもあって実証的な議論が難しく、経済学者の側から現行制度への批判はほとんどないのが実情。
――部活動でのバス移動をどう見る?
サステナブルでないと感じている。地方の高校で、自前でスクールバスや部活バスを持って、教職員が運転するのを好む実態は承知しているが、機会費用をしっかり計算しているのかは疑問。教職員の残業の機会費用をしっかり計算すれば、高くついている可能性もある。学校教育が聖域化しているとは感じる。
――貸切バス事業者が介在した有償サービスが事故を起こしたため、報道の焦点が、貸切バス事業類似サービスを脱法的に供給したことにあたっている。しかし、現在の法律では、仮にレンタカーと運転手を学校が別々に手配していれば、この点では問題なかったことになる。
確かに、日本においては有償・無償で安全規制に差をつける発想が強い。本来は情報の非対称性――レモン市場の理論――が根拠になる。その点で言えば、消費者にとってみれば乗合バスは何が来るかわからないが、貸切バスは事前に選択の機会がある。しかし、日本の安全規制は、乗合より貸切のほうが厳しい。レンタカー+運転手派遣なら事前に運転手を選択して指名する機会もある。小さな地域なら運転手の事故歴も公知である。情報の非対称性は比較的小さい。運送サービスは、車と運転手と運行管理の抱き合わせサービスになっているが、経済学的には抱き合わせ販売は歪みを生む。車は古くていいから、運転手は一流の安全な運転手を雇う、といった組み合わせがあってもよい。消費者はバカなので、と決めつけるのはよくない。
――白ナンバーの大量輸送サービスの安全規制をどう考えるか。
二種免許が有償サービスに限定されていることといい、中間サービスが少なかった頃の規制区分が引き継がれている。日本郵便不祥事、軽貨物の事故増加、名古屋市交通局不祥事、磐越道バス事故で4つ案件が貯まっているので、国の方でもまとめて一気になんらかの対応をするタイミングではないか。
人流・観光研究所 寺前秀一所長
――貸切バス事業者が介在した有償サービスが事故を起こしたため、報道の焦点が、貸切バス事業類似サービスを脱法的に供給したことにあたっている。しかし、現在の法律では、仮にレンタカーと運転手を学校が別々に手配していれば、この点では問題なかったことになる。
レンタカーと運転手を学校が別々に手配して、貸切バスよりも安いサービスを造成すること自体は、問題ないのではないか。この場合、運転手の質は学校がチェックする責任を負う必要があるし、そのことはわかりやすいと思う。
今回の場合、学校が「事業者に貸切バスサービスを依頼した」という言い分が仮に正しいとすれば、貸切バスを期待させておいて運転手付きレンタカーを寄越したのは事業者の落ち度である。運転手の資質をチェックする機会を学校から奪っている。もちろん、学校が、運転手付きレンタカーが来ることを知っていればこの限りではない。
報道の中には、運転手が対価をもらっていたかを問うものもあったが、そこは問題ではない。有償性は、運送サービスの供給者が金銭を受け取るかどうかで判断するのであって、今回の運転手は運送サービスの供給者とはいえない。運転手が誰に雇用されていたのか、あるいは労働者派遣されていたのかが問題である。誰にも管理されていなかったとすれば、まずい。
――報道の焦点が貸切バス事業類似サービスを脱法的に供給したことにあたっているが、裏読みすれば、無償のバスなら事故が起こってもここまで問題にならない、あるいは、有償のバスは安全性がより高くなければならないかのような主張を内包している。同じ外形の部活動遠征バスにおいて、有償性の有無で安全性が異なって良いという主張は違和感がある。
有償性の有無にかかわらず、雇用されたドライバーが沢山の人を運ぶなら厳しく安全性が確保されなければならない。道路運送法ではなく、労働基準法や道路交通法の規制をより重視するべきだ。二種免許も、営業用・自家用で区別するべきではない。
海外では、雇用されたプロドライバー全般の働き方を規制するやり方が多い。そこでは、有償性の有無で安全性に差をつける発想になっていない。有償性の有無で運行管理に差がついているのは日本が独特だが、バス運転者の改善基準告示は無償運送でも職業運転手には適用される。
警察の安全運転管理者制度は自家用向けの運行を管理する制度。カネをとっている運送事業は運輸局で監督せよというデマケーション。もっとも、自家用向けの安全運転管理者制度が本当に徹底して運用されているかどうかは問題。レンタカーを単発で借り受けた場合に安全運転管理者制度の網にかからないことも問題だった。
今回の場合、レンタカーの単発借受のために安全運転管理者制度の網にかからず、運転手も職業運転手ではないためにバス運転者の改善基準告示の網にかからず、危険なドライバーによる運転を許してしまった。この穴を塞ぐ必要があるのであり、必ず有償の運送サービスを使うべきだとの主張は疑問。

