栃木県小山市における目標達成型地域公共交通計画策定の実践と課題

論説
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第72回土木計画学研究発表会・秋大会(2025年11月22日~24日、福井工業大学)における招待講演、「地域公共交通研究の工学的発展をめざして ―「現状よりまし計画法」から「目標達成型計画法」へ―」の講演論文から、栃木県小山市の目標達成型地域公共交通計画策定の実践と課題に関する部分を転載して紹介します。


都市部における地域公共交通の「目標達成型計画法」は,これからの考究と実践が待たれている.筆者は,コンサルタントの一員として,小山市地域公共交通計画(小山市[i])で都市部における地域公共交通の「目標達成型計画法」の実践に取り組んだ.

小山市地域公共交通計画では,地域公共交通により実現するまちと暮らしの姿を,市役所とコンサルタントのメンバーの熱心な議論により突き詰めて明らかにした(小山市地域公共交通計画p.28).そこでまとめられた「視点」は8個になり,具体的には,▽都市軸の形成,中心市街地活性化,コンパクト・プラス・ネットワークの実現▽脱炭素・環境負荷軽減▽交通事故削減▽渋滞緩和▽産業振興▽余暇▽観光振興▽健康である.それぞれについて,基本目標として地域公共交通で目指す「まち」の姿が示され,次いで「目指す暮らしの姿」が示された.

次に,こうして定義された,めざすまちと暮らしの姿を,地域公共交通に求められる性能に読み替える作業を行った(小山市地域公共交通計画pp.33-35).小山市ではパーソントリップ調査が行われており,この結果および上位計画の小山市総合都市交通計画,そして上記の目標を考慮して,代表交通手段自動車の通勤トリップのうち1%をマイカー利用から公共交通利用に転換することを,地域公共交通サービスに求められる性能と位置づけた.これが計画の「目的」(Objective)に相当する.

評価指標にも工夫を凝らした(小山市地域公共交通計画pp.69-71).「現状よりまし計画法」に基づく計画では,社会課題解決へのコミットメントがないために,目標値の決めようがなく,これを反映して,目標値の導出手続きが不明確なままそれらしい評価指標が掲げられることが見受けられる.小山市地域公共交通計画においては,めざすまちと暮らしの姿に準拠して「評価したい事柄」を決め,それに対して,「目的」と整合的な指標と指標値を定めた.また,谷本・喜多16のニーズ充足主義への批判を踏まえて,満足度のような主観指標は排し,客観指標にこだわった.小山市は決して頻繁に都市交通調査ができるような大きな自治体ではないため,指標値の入手可能性にも配慮した.

小山市地域公共交通計画は,計画全体の構成設計においても,工夫を凝らしている.

「改善効率化型計画法」および「現状よりまし計画法」では,利用者としての住民の役割が強調されるために,非利用者を含む納税者・主権者としての住民を巻き込んだ,資源配分を含む社会的意思決定の手続きが不十分となりがちである.その点に対する反省から,小山市地域公共交通計画では,地域公共交通政策は主権者の意思によって供給方法と供給水準が決められなければならないと考え,主権者の判断を「めざすまちとくらしの姿」から「公共交通に求められる性能」に,「公共交通に求められる性能」を「公共交通供給基準」に順に読み替えていくアプローチをとった(図-1).さらに,主権者としての住民に地域公共交通政策の制約条件を知ってもらうために,「公共交通サービスの設計指針」(小山市地域公共交通計画pp.39-66)を盛り込んだ.

図-1 「目標達成型計画法」でめざす地域公共交通計画の構成の一例

 

小山市役所は,主権者の意思として示された公共交通供給基準に基づいて,公共交通事業計画(すなわち,路線図と時刻表などの「基本コンテンツ」)を策定することとし,ここで利用者の意見を反映することとした.これは,喜多8のいう「交通計画」と「事業計画」を切り分けることをも意味した.コミュニティバスで都市内交通を一元的にまかなう小山市のような都市では,「事業計画」もまた必要なのである.こうした計画構成はもう一つ重要な利点があった.第4章(1)で述べたように,2020年の法改正・補助制度改正によって,今日では地域公共交通計画は国庫補助金請求書としての役割を持たされている.国庫補助金のクライテリアと自治体の交通計画が依拠すべき方針はほとんど関係ない.小山市地域公共交通計画では,国庫補助金請求書としての内容を,地域公共交通計画本体の筋道に悪影響を与えないように,第5章の事業計画の一部分に封じ込めた.

もちろん,小山市地域公共交通計画は,不十分な点も多々ある.「めざすまちとくらしの姿」から「公共交通に求められる性能」への読み替え手続きはかなり粗略なものにすぎない.また,主権者の判断を重視した構成にしたとはいえ,計画立案にかけられる資源制約上,主権者としての住民の関与の機会をパブリックコメント以外にはほとんど設けられなかったことは重大な課題として残された.

小山市の経験は,「目標達成型計画法」の構想を実際の地域公共交通計画に適用しようとする初期的な試みである.その意義は,地域公共交通の目標を交通内部に求めず,「めざすまちと暮らしの姿」という上位目的から出発して,計画体系を逆算的に構築した点にある.これは,地域公共交通を単なるサービス改善や需要拡大の対象ではなく,社会的目的の達成手段として位置づけ直す転換であり,「目標達成型計画法」の理念に沿うものである.

同時に,小山市の経験は,この計画法を実践するうえでの課題も教えている.すなわち,主権者としての住民の意思をどのように反映するか,また「めざすまちと暮らしの姿」から「公共交通に求められる性能」への読み替えを,いかに体系的・定量的に行うかという課題である.これらは今後の「目標達成型計画法」の理論的・方法論的洗練に不可欠な論点である.

小山市の経験は,地域公共交通の計画が「現状よりまし計画法」を脱して「目標達成型計画法」へ移行し得ることを示しただけでなく,その移行を支えるための土木計画学的知見――目標設定,性能定義,社会的意思決定手続きの設計――の深化が求められることを示唆している.

[i] 小山市:小山市地域公共交通計画,2023.[Oyama City: Oyamashi Local Transportation Plan, 2023]

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